平成28年の国民健康・栄養調査の速報から20歳以上の日本人の栄養素の摂取実態で特に問題となるものを表1に示しています。この摂取量が適切か、否かは国が設定している食事摂取基準(2015年)と比べてみました。
表1 日本人の栄養摂取の実態(平成28年国民健康・栄養調査から)
栄養素 | 摂取量(20歳以上) | 食事摂取基準(18歳以上) | ||
---|---|---|---|---|
男性 | 女性 | 男性 | 女性 | |
食物繊維(g) | 15.0 | 14.4 | 20以上 | 18以上 |
ビタミンA(μgRE) | 541 | 520 | 850 | 675 |
ビタミンB1(mg) | 0.94 | 0.81 | 1.33 | 1.03 |
ビタミンB2(mg) | 1.20 | 1.12 | 1.50 | 1.15 |
食塩相当量(g) | 10.8 | 9.2 | 8.0未満 | 7.0未満 |
カリウム(mg) | 2,356 | 2,216 | 3,000以上 | 2,600以上 |
カルシウム(mg) | 498 | 492 | 713 | 650 |
鉄(mg) | 8.0 | 7.3 | 7.25 | 10.5 |
表1では男女ともにビタミンA、ビタミンB1、カルシウムなどの微量栄養素と食物繊維が足りないことを示しています。女性では加えて鉄が不足しています。微量栄養素の不足は野菜や果実の摂取不足が背景にあります。他方、食物繊維の不足は植物性食品の全体的な摂取不足とともに穀類の選択が不適切であることを示しています。わが国では穀類としては米や小麦が中心となっていますが、いずれも精白したものであるために食物繊維が不足する原因となっています。
食物繊維の摂取量については1955年からの変化を図1に示しました。また、平成28年の国民健康・栄養調査から年齢別の摂取量を図2に示しています。いずれの年代でも国が設定した食事摂取基準を満たしていません。
食物繊維とは1970年代に欧米の研究者からその重要性が指摘された成分です。食物繊維とは、「ヒトの消化酵素では消化されない食品成分」のうち多糖類とリグニンを指しています。多糖類とは米や小麦などの穀類、いも類などに含まれるでんぷんなどの仲間の化合物ですが、食物繊維に該当する多糖類はヒトの消化酵素で消化されにくいので、難消化多糖類ともいわれます。これらの成分は主に植物性の食品に含まれます。穀類、野菜、果実、いも類、きのこ類、海藻などに含まれていますが、単一の成分ではなく様々な種類がありますので、その機能性は多様です。
食物繊維そのものは消化されずに、消化管内にとどまって、他の食物成分の消化や吸収を遅らせたり、阻害することによって血糖値の上昇を抑制したり、脂質やコレステロールなどの消化・吸収を抑制します。その様子は図3に示しました。大腸に到達した食物繊維は糞便の原料となったり、腸内細菌の餌となることを通して大腸内環境を整えます。
わが国で一般に摂取されている食品の成分含量については、「七訂日本食品標準成分表」として文部科学省によって公表されています。この中では食物繊維は水溶性食物繊維と不溶性食物繊維で示されています。図4と図5に主要な穀類と野菜・果物の食物繊維の含量を示しました。
図6には平成28年の国民健康・栄養調査から日本人の健康状態を示しました。わが国では75歳以上の高齢者では高血圧者は80%以上にも及びます。他方、肥満者の割合もとくに男性では高く、20歳以上では4人に1人はBMIが25以上となっています。糖尿病が強く疑われる人は50歳代の男性では5人に1人になっており、糖尿病の患者数も1,000万人を越えたと発表されています。血中コレステロールが高い人の割合もこの10年間、ほとんど変化がありません。
こうした生活習慣病の増加は、高血圧症の場合は食塩の過剰摂取が原因とされていますが、最近では肥満に伴う可能性も指摘されています。肥満、高コレステロール血症、糖尿病などはいずれもエネルギーや脂肪摂取の過剰、運動量の低下とともに、食物繊維の不足が大きな要因となっています。